対面研修のノウハウを 「選ばれるデジタル教材」へ昇華させる設計図
「対面で行っている研修をeラーニング化したいが、現場の熱量やニュアンスまで伝わるだろうか?」
「ノウハウはあるが、デジタル教材としてパッケージ化するにはどうすればよいか…」
対面研修で実績を重ねてこられた事業者さまほど、媒体の違いによる「質の担保」に課題を感じられているのではないでしょうか?
解決策を探そうと「eラーニング 内製化」と調べても、出てくる情報は一般的な社内研修向けのものばかり。「プロとして有料で提供できる品質」を求める場合、物足りなさを感じることも多いのが実情です。
多くの研修ビジネスにおいて、デジタル化成功の鍵を握るのは、皆さまが持つ対面ならではの貴重なノウハウを、eラーニングという特性に合わせて「再編集(翻訳)」する設計力にあります。
ロゴスウェアは、LMSや作成ツールを提供するベンダーですが、単にツールを売るのではなく「お客さま自身がノウハウを形にする(内製化する)」ことを重視し、支援を続けてきました。プロの繊細なノウハウは、その価値を深く理解している皆さま自身がコンテンツ化してこそ、真の価値を再現できると考えています。
本連載シリーズでは、貴社の貴重なノウハウをeラーニング教材として展開するためのポイントを全3回でご紹介します。
第1回は、コンテンツの品質とビジネス成果を左右する、一番大切な「企画・準備」のプロセスについて、ビジネス視点から紐解いていきます。
<この記事はこんな方にオススメです>
- 対面集合研修を実施している研修事業者の方
- 自社の専門教育や研修のノウハウを活用したを新規事業を検討中の方
目次
eラーニング化で直面しやすい課題
「段取り」の先にある「体験設計」の重要性
一般的に、eラーニング化の手順として以下の4ステップが語られます。
- 目的の明確化(コスト削減、ビジネス拡大など)
- コンセプト検討(誰に、何を教えるか)
- 対象者分析(受講者の現状レベル把握)
- 学習目標の設計(ゴール設定)
これらはプロジェクト進行の基本ですが、対面研修のプロである皆さまが本来実現したいのは、単なる情報のデジタル化ではなく「対面研修と同等の成果(行動変容)」をオンラインでも再現することではないでしょうか?
成果に繋がりづらいケースの共通点
内製化に取り組んだものの、期待した成果が得られにくいケースには、いくつかの共通点が見受けられます。
- 問題①「情報伝達」に留まっている
知識を伝えることには成功していても、顧客が求めている「課題解決(現場での実践)」に直結するシナリオになっていないケースです。 - 問題②「制作」そのものが目的化している
動画のクオリティや編集技術にリソースが割かれ、本来の目的である「受講者のスキルアップ」や「ビジネス上の成果」がおざなりになってしまう傾向があります。 - 問題③具体的な「型」が定まらない
理論は理解できても、いざ自社のコンテンツを落とし込む際の具体的なフレームワークが不足しているため、着手に時間がかかってしまうケースです。
本記事では、これらの課題を解消し、貴社のノウハウを「高付加価値なデジタル資産」へ変換するためのアプローチについて解説します。これらは決してやり方が間違っているわけではなく、少し視点を変えるだけで解決できることも多いのです。
コラム—ベンダーの視点から:プロの講師が「デジタル化」で直面する壁
私たちの支援経験からも、対面研修のプロフェッショナルほど、最初のeラーニング化に戸惑われるケースは少なくありません。受講者の反応を見てその場で調整する、といった対面ならではの「ライブ感」が使えないことが、大きなハードルになるためです。
私たちはツールベンダーとして、設計したアイデアを、ストレスなくデジタル教材化できるツールの開発に注力していますが、それらを活かすためにも、まずは「設計の思考法」をインストールすることが不可欠だと考えています。
【準備編】ビジネス成果を高める企画の視点
ここからは、プロ品質の教材を作るための「企画・準備」のコツを2つのステップでご紹介します。
①リソース配分の最適化
「貴社だからこそ提供できる価値」を見極める
すべての研修コンテンツを内製化(自社制作)する必要はありません。
ビジネスとして成功させる鍵は、「貴社にしか提供できない価値」にリソースを集中させることです。
- 内製化が推奨される領域(貴社の独自性)
貴社独自のメソッド、長年の経験に基づく事例解説、講師の方々が持つ暗黙知など、他社との差別化要因となるノウハウです。これらをデジタル資産として蓄積することが、競争力の源泉となります。 - 既存教材等の活用が推奨される領域
一般的なビジネスマナーやコンプライアンス、PCスキルなどは、既存の高品質なコンテンツを活用するのも一つの手です。

活用のヒント
汎用的な知識は既存教材を利用し、貴社独自の「解」や「哲学」が必要な部分に制作リソースを注いでください。このハイブリッドな構成こそが、品質とコストパフォーマンスを両立させるポイントです。
なお、既存資料や外部情報を引用する際は、著作権の処理に十分ご注意ください(参考:公益社団法人著作権情報センター)。
②ターゲットとゴールの具体化
「顧客の成果」を約束する目標設定
内製化する領域が定まったら、次に「誰に」「何を」提供するかを設計します。
ここで重要なのは、教育的な学習目標に加え、「クライアント(発注者)が納得する成果」を定義するという視点です。
① スタート地点(現状課題)の解像度を高める
ターゲット設定において、「管理職向け」「新人向け」といった属性だけでなく、「現場での具体的な困りごと」にフォーカスを当てることで、教材の説得力が増します。
【ヒアリングの視点例】
対面研修の事前ヒアリングと同様に、以下のような視点が有効です。
- 現場の課題感
—受講者が現場で最もつまずいている業務シーンはどこか?
—研修後も問い合わせが減らないポイントはどこか? - 期待される成果
—受講後、現場でどのような変化(数値改善や行動変化)が起きれば、このeラーニングは成功と評価されるか?
ゴール設定(行動変容)の言語化
スタート地点が見えたら、ゴールを設定します。
ここでは「理解する」という知識レベルの目標を、「(受講者が)~できる」という具体的な「行動」に変換することで、教材の商品価値が明確になります。
この考え方は、教育工学における学習目標の段階(タキソノミー)に基づいています。ビジネスで成果を出すためには、下の図の「Step 3」を目指すことが推奨されます。

【目標設定のブラッシュアップ例】
- Step 1:知識レベル(変更前)
- 目標:「ロジカルシンキングの重要性を理解する」
- 課題:「理解」の状態は顧客から見えにくく、研修効果(ROI)として提示しづらい。
↓
- Step 3:行動レベル(変更後)
- 目標:「顧客からのクレームに対し、ロジカルシンキングを用いて原因を特定し、納得感のある再発防止策をその場で提案できる」
- メリット: ここまで具体的であれば、「現場のクレーム対応力を強化するプログラム」として、顧客への訴求力が格段に高まります。
このように「行動」で定義することは、教材構成をシャープにするだけでなく、研修後の効果測定における明確な指標となります。
第1回のまとめ(次回予告)
第1回は、eラーニング教材内製化における「企画・準備」のプロセスについて、ビジネス視点を交えて解説しました。
- 「手順」だけでなく、ビジネスとしての「提供価値」を設計する。
- 「制作」にとらわれず、「顧客の成果(行動変容)」をゴールに据える。
- 「自社の独自ノウハウ」にリソースを集中し、差別化を図る。
これらの「設計図」を固めることは、遠回りのようでいて、実は高品質な教材を最短で完成させる近道となります。
逆に言えば、このしっかりした設計図さえあれば、あとはそれを実現できる「適切な道具(ツール)」を選ぶだけです。高額な外部委託や、複雑すぎる専門ソフトは必ずしも必要ではありません。
次回、【第2回:実践・制作編】では、この設計図を基に、「受講者が飽きずに最後まで見る」「分かりやすい」教材(スライド、動画、テスト)を、効率的に作成するための実践的なテクニックをご紹介します。
貴社のノウハウを、最適なデジタルの形へ。次回もぜひご覧ください。
【参考文献・参照リンク】
本記事の執筆にあたり、以下の専門情報・公的ガイドラインを参照・推奨しています。
1. インストラクショナルデザイン(教授設計)の基礎理論について
本記事で解説した「学習目標の設計」や「行動変容」のアプローチは、教育工学の知見に基づいています。
- 熊本大学 教授システム学研究センター(GSIS)
日本におけるインストラクショナルデザイン研究の拠点であり、eラーニングに関する多くの研究成果や公開講座情報が発信されています。
https://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/ - ロゴスウェア公式サイト「リスキリング用語集」—インストラクショナルデザイン
弊社のリスキリング用語集でも解説しています。
https://www.logosware.com/reskilling-glossary/glossary-40/
2. 著作権・権利関係について
既存の教材や外部資料をeラーニングに引用・転用する際は、正しい著作権処理が必要です。
- 公益社団法人著作権情報センター(CRIC)
著作権に関するQ&Aや、ビジネス実務における著作権の扱いについて詳しく解説されています。
https://www.cric.or.jp/ - 文化庁「著作権」 著作権法制度の基本情報や、最新の法改正情報が掲載されています。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/
3. 人的資本経営・リスキリングの市場動向について
企業における教育の重要性や、人材育成のトレンドについては以下が参考になります。
- 経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」
人材戦略やリスキリングに関する国の指針やレポート(人材版伊藤レポート等)がまとめられています。
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/index.html - ロゴスウェア公式サイト「リスキリング用語集」—人的資本経営
https://www.logosware.com/reskilling-glossary/glossary-01/

- マーケティンググループ
- デザイナー兼マーケ担当。デザイン制作で培った「ユーザー視点」を大切に、ユーザーファーストな記事執筆を心がけています。デザインとデータの両面から、皆さまの課題解決に役立つ情報を整理してお届けできるよう頑張ります!
最新の投稿
- 2025年12月16日対面研修のノウハウを 「選ばれるデジタル教材」へ昇華させる設計図