価格競争から脱却する!人材開発支援助成金を活用した“eラーニングパッケージ”の始め方
「他社はもっと安いんですよね…」「もっと安くなりませんか…」
研修事業を行っているみなさまの中には、このような不本意な価格競争に巻き込まれてしまっている方もいるのではないでしょうか。
第1回でお伝えした通り、企業の社員教育への投資意欲は高いものの、投資対効果(ROI)に対してはシビアになってきています。実際にIPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「DX動向2025」2によると、日本企業は欧米に比べ、取り組みの成果を「測定できていない(わからない)」とする割合が高くなっており、企業が「効果が見えない投資」に対して慎重になっていることの裏返しと言えます。
こうした状況下で「助成金を使えば安くなります」と伝えるだけの提案は、企業が抱えている課題の本質的な解決になりません。助成金活用の本当の目的は、単なるコストダウンではなく「サービスの付加価値を高め、適正価格で受注し、顧客が期待する成果を確実に提供すること」にあります。
第2回となる本記事では、価格競争から脱却し、顧客と自社の双方にメリットをもたらす「助成金活用 eラーニングパッケージ」の始め方について分かりやすく解説します。
<この記事はこんな方におすすめです>
- 研修会社・教育機関・コンサルティング会社の経営者、事業責任者
- 顧客から「予算がない」と断られることが多い営業担当者
- 助成金を活用して、安売りせずに受注単価を上げたい企画担当者
目次
“点”から“線”へ、研修×LMSのパッケージ戦略
単発研修の限界と「学習転移」の難しさ
社員教育が抱える大きな課題に「研修効果の定着」があります。企業の社員教育実施率は年々高まっています1が、1日や2日の単発の研修を行うだけでは、受講者の行動変容を促すことは容易ではありません。
人材育成の分野では、研修で学んだことを現場で実践することを「学習転移」と呼びますが、これには「事前の動機づけ」と「事後のフォロー」が不可欠だと言われています。しかし、予算や時間の制約により、単発の「点」の研修で終わってしまうケースが多く見られます。
ブレンデッドラーニングによる価値向上
この課題を解決するのが、集合研修(対面/オンライン)とeラーニング(LMS)を組み合わせた「ブレンデッドラーニング」のアプローチです。これは、研修をその日限りで終わらせず、事前学習・集合研修・事後学習をシームレスにつなぎ、学習者の成長を継続的に支援する「線」の学習プロセスにするものです。
LMSというプラットフォームを利用することで、研修当日以外の時間も「教育期間」として一貫したストーリーを描くことが可能になります。
【プロセス例(パッケージ化)】
- 事前学習(eラーニング)
動画視聴、教材視聴 - 集合研修(対面/オンライン)
ワークショップ、グループディスカッション - 事後学習(eラーニング)
課題レポート、理解度確認テスト
このパッケージ化は、単なるオプションの追加ではありません。LMSという学習環境と質の高いコンテンツをセットにし、「やりっぱなし(点)を防ぎ、研修の効果を保証するプロセス(線)を提供すること」です。
助成金活用による導入障壁の低減
通常、システムやコンテンツ制作費を含む提案はコスト面で懸念されがちですが、『人材開発支援助成金』を活用すれば、導入のハードルを下げることが可能です。例えば「人材育成支援コース」では、経費の一定割合(中小企業で45%など)を助成する仕組みがあります。
LMS導入によるコスト増への懸念に対しては、「助成金を活用することで、投資対効果を高め、無理のない予算感で充実した学習環境を構築できる」という点を訴求します。これにより、単なる値上げではなく「効果の高い研修を行いたい」という顧客の本質的なニーズに応える提案が可能となります。
双方が利益を得られる「Win-Win」の構造
具体的な数字を用いて、導入企業と研修事業者双方へのメリットを整理してみましょう。
ここでは、中小企業に対して「新入社員研修(または若手層向けスキルアップ研修)」を提案するケースを想定します。
【前提条件】
- 対象企業:中小企業
- 対象人数:受講者10名
- コース :人材開発支援助成金(人材育成支援コース)
- 助成率 :経費助成 45%
| A: 従来の提案 | B: 助成金活用パッケージ | |
|---|---|---|
| 提示価格 | 300,000円 | 500,000円 ※LMS利用料込 |
| 提供サービス | 集合研修(2日間)のみ | 集合研修(2日間) + eラーニング(事前学習・事後学習) |
| 助成額(経費助成) | 0円 | 225,000円 (50万円 × 45%) |
| 顧客の実質負担 | 300,000円 | 275,000円 |
※上記は、LMS利用料や教材費を「研修受講のための必要経費(受講料等)」として一括でパッケージ化し、労働局に認められた場合のモデルケースです。提案の際は、必ず最新の要件や管轄の労働局へご確認ください。
双方にとってのメリット
顧客(導入企業)のメリット
コスト効率と品質の向上
A案(30万円)と比較して、B案の実質負担額は27万5,000円となります。提供される研修内容がグレードアップし、LMSによる学習環境も整うにもかかわらず、従来の単発研修よりも安い予算で導入が可能になります。
貴社(研修事業者)のメリット
適正価格での受注と収益性
付加価値を高めた分、受注単価は30万円から50万円へと向上します。重要なのは、単なる値上げではなく「学習環境込みの研修パッケージ」として受講料(単価)そのものを引き上げられる点です。eラーニング教材やLMS利用料を「研修受講費」に包括して設定することで、講師派遣(変動費)を増やさずに売上総額をアップさせ、高い収益性を確保できます。
効率的なカリキュラム設計
金銭的なメリットが明確になったところで、次は「具体的にどう作るのか」という実務的な部分を見ていきましょう。助成金を活用する際、ポイントとなるのが「訓練時間の要件」です。例えば、「人材育成支援コース」では、一定の訓練時間(例:10時間以上)が要件となる場合があります。
要件を満たすために、対面研修の日数を無理に増やすことは得策ではありません。講師や会場などの原価が膨らみ、利益を圧迫するからです。また、顧客側にとっても、社員を研修に参加させるための業務調整は大きな負担となります。
eラーニングとの「組み合わせ」で最適化
そこで推奨されるのが、前述した「ブレンデッドラーニング」を訓練カリキュラムとして申請する方法です。人材開発支援助成金では、集合研修とeラーニングを合算して訓練時間要件を満たすことができます。
具体的なモデルケースを見てみましょう。
【モデルケース:DX入門研修】
- STEP 1:事前学習(eラーニング)[4時間]
- 内容 :動画視聴(DXの基礎概念、技術トレンドなど)
- 受講形態:業務時間内の空き時間や、テレワーク中などに受講(LMSで進捗管理)
- STEP 2:集合研修(対面/オンライン)[6時間]
- 内容 :グループワーク(自社課題の洗い出し)、アイデア検討・発表。
- 受講形態:講師による指導
- STEP 3:事後学習(eラーニング)[2時間]
- 内容 :課題レポート提出、理解度確認テスト
- 受講形態:研修翌日以降に実施
【合計訓練時間:12時間(4時間+6時間+2時間 = 12時間 > 要件の10時間)】
この設計の利点は以下の通りです。
- 効率的なリソース配分
講師が稼働するのはSTEP 2の1日のみとなり、原価を抑制できます。 - 受講者の負担軽減
集合研修以外は個別のタイミングで受講できるため、業務への影響を最小限に抑えられます。 - 学習効果の向上
「学習(動画)」と「実践(対面)」を明確に分けることで、対面研修の時間は付加価値の高いディスカッションに集中できます。
eラーニング教材はどう用意するか?
「自社には動画コンテンツがない」という研修事業者さまもいるかもしれませんが、必ずしも高価なスタジオできれいな見た目の動画を撮影する必要はありません。
- 既存資産の活用
過去の講義録画を分割編集する、あるいはPowerPointに音声を吹き込んで動画化する。 - 効率化ツールの活用
編集の手間を減らしたい場合や、理解度テストなどのコンテンツを簡単に作りたい場合は、市販のソフトウェアを利用するのも有効です。 - プロへの外注
外部の代行サービスを利用してクオリティを高め、パッケージ全体の単価に見合う品質を担保するのも一つの戦略です。
重要なのは、学習目標を達成するための「確かな構成」と、助成金要件である「標準学習時間の設定」や「学習履歴の管理」を両立させ、教育効果の高いプログラムとして成立させることです。
弊社でも教材作成ソフトウェアや教材制作代行サービスを提供しておりますので、リソース不足でお困りの際はお気軽にご相談ください。
顧客満足と継続的な関係構築(LTV)
ここまで「助成金を通すための設計」についてお話ししてきましたが、このパッケージ化にはもう一つ、見逃せない大きなメリットがあります。 それは、単体の研修実施にとどまらないLTV(顧客生涯価値)の最大化です。
データに基づく改善提案
従来の研修では、実施後の効果測定が「アンケート(受講者の主観評価)」にとどまってしまうケースが多く、経営層が求める「投資対効果」の証明には不十分です。しかし、LMSを導入することで、受講状況やテスト結果などの客観的なデータを蓄積できます。
「動画の視聴完了率は95%と高いが、テストの正答率が平均60%と低い」
「総務部は進捗が早いが、営業部は業務多忙のためか夜間のアクセスが多い」
研修終了後、こうしたデータを活用して「情報セキュリティ分野の理解度が不足しているため、次年度はここを強化するカリキュラムを追加しましょう」といった、根拠に基づいた改善提案が可能になります。
データに基づいたコンサルティングができる研修事業者は、顧客にとって代替のきかないパートナーとなります。単なる「研修の実施代行」から、「人材育成コンサルタント」へとポジションを変えることで、翌年のリピート受注や他部署への横展開が期待できます。
適正な運用が信頼を守る
今回の記事では、助成金を活用してサービスの付加価値を高め、適正価格での受注を目指す戦略について解説しました。
最後に重要なポイントについて振り返ってみましょう。
- パッケージ化
単発研修にLMS(予習・復習)を組み込むことで、教育効果と商品価値を向上させる。 - メリットの共有
助成金活用により、顧客の実質負担を抑えつつ、自社の収益性を確保する(Win-Win)。 - ブレンデッドラーニング
集合研修とeラーニングを組み合わせ、効率的に訓練時間要件を満たす。 - データ活用
学習データを活用したフィードバックにより、継続的な関係を構築する。
これらの戦略は、競合との差別化を図り、持続的な事業成長を実現するための有効な手段です。しかし、この戦略に基づくビジネスモデルを成功させるためには、一つだけ非常に重要な前提条件があります。それは、「助成金の支給要件を確実に満たすこと」です。
どれほど優れた研修パッケージであっても、労働局の審査で「不備」と判断されれば、助成金は支給されません。そうなれば、「実質負担が減る」という前提が崩れ、顧客に多大な影響を与えてしまいます。積み上げた信頼を一瞬で失うリスクがあるのです。
特にeラーニングを活用する場合、第1回でも触れたように「学習状況の管理」「標準学習時間」「ログ管理」といった要件には注意が必要です。「早送りやスキップできてしまった」「学習時間の整合性が取れない」といった、システムや管理上のミスが不支給の原因となるケースがあります。
次回、第3回(最終回)では、研修事業者が押さえておくべき「助成金申請における注意点と対策」について、実務的な観点から解説します。汎用的な動画ツールやExcel管理に潜むリスク、そして「不支給」を防ぐための適切な管理体制の構築方法について、詳しく見ていきましょう。
(第3回へ続く)
関連リンク
- ブレンデッドラーニング
https://xe.logosware.com/feature/blended-learning/ - コンテンツ作成ソフト(スライド、テスト、デジタルブック作成など)
https://suite.logosware.com/ - コンテンツ制作サービス(各種教材の制作代行サービス)
https://service.logosware.com/
引用・参考文献
- 厚生労働省『令和6年度 能力開発基本調査』
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/newpage_00202.html - IPA(独立行政法人情報処理推進機構)『DX動向2025』
https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/dx-trend-2025.html - 内閣官房『人的資本可視化指針』
https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf - 厚生労働省『人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内』
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001241379.pdf - 厚生労働省『人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内』
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001019848.pdf - 厚生労働省『人材開発支援助成金(人への投資促進コース)のご案内』
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001242995.pdf
※本記事の情報は2025年12月時点の公表資料に基づきます。助成金の要件や支給額は改正される可能性があるため、申請の際は必ず厚生労働省または管轄の労働局の最新情報をご確認ください。

- マーケティンググループ
- ロゴスウェアのマーケター/デザイナー。マーケターとしての「読む力」と、デザイナーとしての「見る力」で、みなさまの課題解決の糸口になる情報をお届けします。
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